伝統の「青ひび」に宿る、不屈の輝き。
福島県浪江町を拠点とする「大堀相馬焼(おおぼりそうまやき)」は、約350年の歴史を持ち、旧相馬藩の「御用見(ごようけん)」として愛されてきた、東北屈指の伝統的工芸品です。
最大の特徴は、器全体に広がる繊細な「青ひび」、躍動感あふれる「走り駒(左馬)」、そして熱い飲み物を入れても持ちやすい画期的な「二重焼(ふたえやき)」という、唯一無二の3つの技法。
これらは単なる装飾ではなく、江戸時代から続く職人の知恵と、厳しい気候を生き抜く人々の想いが結晶したものです。
2011年の東日本大震災により、一時は産地そのものが壊滅的な被害を受けましたが、職人たちは伝統の火を絶やすことなく、新たな地で再び窯に火を灯しました。
最近では、その機能美を活かしたモダンなタンブラーや、ライフスタイルに馴染む新しい色彩など、震災からの復興と進化を象徴する作品も次々と生まれています。
この記事では、相馬の殿様が愛した馬の紋章の秘密から、科学的にも優れた二重構造の驚き、そして「割れてもなお美しい」と言われる深い魅力までを完全網羅。
手にするだけで勇気が湧いてくるような、大堀相馬焼の力強くも優しい世界へご案内します。
歴史と特徴
1. 350年の歴史と「不屈の再起」
大堀相馬焼の歩みは、相馬藩の「武士の内職」から始まり、幾多の困難を乗り越えてきました。
- 藩の保護と発展:元禄年間(1688年〜1704年)、相馬中村藩の士族・半谷休閑(はんがい きゅうかん)が、大堀(現在の福島県浪江町)で陶土を発見したのが始まりです。藩の特産品として手厚く保護され、最盛期には100軒もの窯元が軒を連ねる、東北最大の産地へと成長しました。
- 震災からの復興:2011年の東日本大震災により、浪江町の窯元は避難を余儀なくされました。しかし、「伝統の火を消さない」という強い意志のもと、現在は福島県内の他地域に移り住んだ職人たちが、新しい窯を築き、伝統を守り続けています。
2. 大堀相馬焼を象徴する「3つの特徴」
大堀相馬焼には、他の陶磁器には見られない独自の技法が凝縮されています。
① 青ひび(あおひび)
器の表面に広がる、繊細なひび割れ模様です。
- 美しきミスマッチ: 素材となる粘土と、表面を覆う釉薬(ゆうやく)の収縮率の違いによって生まれます。窯出しの際、パチパチと「貫入音(かんにゅうおん)」を立てて刻まれるこの模様は、使い込むほどに味わいを増していきます。
② 走り駒(はしりごま)
器の正面に、勇壮に描かれる馬の絵です。
- 「左馬」の縁起:相馬藩の御神馬をモデルにしたこの馬は、常に左を向いています。「右に出るものがない(無敵)」という意味が込められた、縁起の良い紋章です。職人が一筆書きのように一気に描き上げる躍動感は、相馬焼の魂と言えます。
③ 二重焼(ふたえやき)
器が二重構造になっている、世界でも珍しい技法です。
- 魔法瓶のような知恵:外側と内側の間に空洞を作ることで、熱いお茶を入れても外側が熱くならず、中身が冷めにくいという利点があります。この独自の構造は、東北の寒い冬に温かい飲み物を楽しむための、生活の知恵から生まれました。
3. 「素朴」で「力強い」唯一無二の風合い
大堀相馬焼の土は、地元の素材を活かした独特の質感を持っています。
- 鉄分を含んだ土:焼成すると独特の渋みが生まれます。
- 地元の釉薬:「相馬青磁釉」と呼ばれる、深い青緑色の釉薬が「青ひび」と合わさることで、まるで氷が割れたような、あるいは清流のような涼やかさと深みを表現します。
「二重焼」が現代のライフスタイルに効く理由

江戸時代の知恵である「二重構造」は、今の私たちの暮らしにも驚くほどフィットします。
究極の「結露しない」ロックグラスとして
冷たい飲み物を入れても、外側に水滴がつきにくいのが二重焼の隠れたメリット。
コースターを濡らしたくないデスクワークや、ゆっくりとお酒を楽しみたい夜に最適です。
「熱々」を楽しめるモダンタンブラー
最近では、コーヒーやラテに合うスタイリッシュな形状のタンブラーも作られています。
持ち手(取っ手)がなくても熱さを感じずに持てるため、手のひら全体で器の温もりを感じながら、優雅なティータイムを演出できます。
「割れてもなお、縁起が良い」贈りもの
「左馬(右に出るものがいない)」という紋章があるため、昇進祝いや受験のお守り、新築祝いとして非常に喜ばれます。
また、「ひび(青ひび)」が入っていることが完成形であることから、「これ以上悪いことが起きない」という逆転の発想で愛されているのです。
青ひびを自分色に染める「育てる」喜び
大堀相馬焼の最大の特徴である「青ひび」は、手に入れた瞬間がスタートです。
「貫入音」を聴く幸せ
使い始めの頃、熱いお茶を注ぐと「キンッ、パチッ」と微かな音が聞こえることがあります。
これは器が生きている証拠。
新しいひびが生まれる繊細な音を楽しむのは、相馬焼ファンだけの特権です。
ひびが深まる「色差し」
長年お茶やコーヒーを飲み続けると、その成分がゆっくりとひびの間に染み込んでいきます。
これを「色差し」と呼び、使い込むほどに模様がくっきりと浮き上がり、アンティークのような深い風格に育っていきます。
お手入れは「しっかり乾燥」
汚れを染み込ませたくない場合は、使う前に一度水に浸してから使うのがコツです。
また、二重構造の隙間に水が入らないよう、洗った後は風通しの良い場所でしっかりと乾燥させてください。
さいごに
大堀相馬焼を手に持って、じっと「走り駒」を眺めてみてください。
一時は産地が失われかけながらも、場所を変え、土を変え、それでも伝統の技を守り抜いた職人たちの執念が、その力強い馬の筆致に宿っています。
「青ひび」は、傷ではなく個性。
「二重焼」は、人を想う優しさ。
「走り駒」は、不屈の精神。
日常の何気ない一杯が、大堀相馬焼の器を通すことで、少しだけ特別で、前向きな時間に変わるはずです。
福島が誇る「不屈の輝き」を、あなたの食卓に迎えてみませんか。


コメント